【2018/10月号】 自由を履いて裸足で歩こう

僕は公園に行くと直ぐ裸足になります。そして子供に「脱げよ気持ちいいからさ。」と言います。
でも子供が嫌がるんです。大体は逆に「靴は脱がないで!」って親が怒ってるんですけどね。

30年ほど前のデッドストックのちょっと変形型のワラビーブーツを購入し、それを素足で履いて家を出ました。確かに足を入れた瞬間に

「ちょっと横がキツイな・・」

と思ったんすが、まあ大丈夫だろうと。
皆さんご存じでしょうがワラビーもデザートブーツ同様、天然ゴムを使ったクレープソールです。そうあの軟らかいソールが30年の時を得て石の様に固まっていたのです。駅まで自転車だったので、電車に乗るまでせいぜい5分程度歩いただけですが、信じられない位擦れて痛いのです。僕は南武線の席に座るや否や靴を脱ぎます。完全に両足の皮は剝けてました。最初に小杉に寄る予定だった僕は、この状態でスタジオ往復するのは厳しいと思い。まずは置き靴(今は置きと言えば勉がNEWSで取り沙汰されてますが)が川崎にあったと思い。最初の目的地を変更しました。「駅から歩いて3分耐えれるかな・・・」と心で呟きます。たかが靴擦れで何を大袈裟な!と思われるでしょうが、40過ぎの男が泣いてしまうほど痛いのです。そこで僕は決心しました。

「そうだ。裸足で歩こう」

靴は色んなものから足を保護してくれる。靴が生まれたから長距離の移動が可能になり文明が広がっていった

そんでもって、ここで少し話を違う場面へと移します。

それは8月末の最終日曜日でした。その日も35度を超える猛暑。毎週毎週予定が立て込んでいたこともあり、今日はその日の気分で近場程度にと妻と話していて、でも暑いからプールしかないなと言う事で、息子の体を鍛える事も兼ねて、敢えて自転車で行くぞと提案しました。GoogleMAPで確認したところ6kmの距離で徒歩なら1時間20分と表示されてます。6kmの割りに時間がかかる原因は、あの東京の坂の中でも有名な長く急な『岡本3丁目の坂』があるからです。僕は必ず楽しい時間の前にキツいことを差し込みたくなる性格で息子に「ああプール気持ちいい、挫けそうになったけどあれも含めて最高だぜ!」と言う気持ちにしたいのです。表と裏・光と影・喜びと悲しみ。人生は美味しいとこ取りは駄目なんだと、何度も回数を重ねて体を持って学ばせる為に僕は考えているのです。でも過酷な道中のことは皆には内緒です。そして妻は当たり前のように、しかもそんな坂の存在を知らずとも、「嫌だあんなとこまでキツイ」と反対されましたが、僕は必至で誤魔化します「君のは電動自転車じゃん。全然平気だよ」と、なんとか説得して渋々納得してもらい、熱中症対策の為に水筒を準備して、僕が上半身裸で待っていると・・・

「なんで裸でいんの!恥ずかしいから服着てよ」

「別にいいじゃん。暑いんだから裸になっていいじゃないか」

「そんな変わってるとこがキライなの。常識的じゃないんのよ!」

「裸でマラソンしてる人とかいるじゃん。」

「そんな人たちも変わってるのよ!」

僕だけでは飽き足らず、妻はマラソン愛好家の方達にまで牙を剥きます。

「別に俺が裸で自転車漕いでても、誰かを傷つける訳でもないじゃないか!」

「あたしが嫌だって言ってるの」

そうです。全てはこの言葉に集約されるのです。

「あたしが嫌なの!!!」

僕が妻と結婚した以上は僕の自由や望むことより、妻の感情こそが正義なのです。
そうです家庭の中では彼女は卑弥呼でありクレオパトラであり、アタルヤであり、エリザベス一世であり、西大后であり・・・

とにかく彼女がこうと決めたら、どんなに懇願しようと無駄なのです。「ていうか服着たらいいじゃん」って突っ込みが同じ女性の皆さんから飛び交いそうですが、僕のこうしたい!って希望はどうでもいいのですか?と自分の中で存在しない誰かに反論する滑稽な状態になってますが・・・

そんなこんなを繰り返していると、元々自転車を遠くまで漕ぐことに苦痛を感じてた息子が、すかさず行きたくないと愚図り始める次第。そして息子よりも乗り気じゃなかった妻がもう行かない。と決定するのでした。
ああ~僕が計画した休日の過ごし方が、息子を心身ともに丈夫にするために鍛えよとうと、色々考えを巡らせていたのに・・・

「僕が服を着さえすればよかったのか・・・」

でもそもそもそんな35度を超える真夏に電動自転車とは言え30分以上走ることが彼女は嫌だったんでしょう。ついでに言わせて貰うと僕が裸にこだわった理由は、一週間以上微熱が続いていて、荒療治で太陽を思いっきり浴びて汗をしこたまかいて、一気に熱を追い払おうと考えていたのです。

そして家族は僕を置いてどこかへ消えて行ってしまいました。

だから僕は僕一人の為だけに「大蔵第二運動場屋外プール」を目指し走り出したのです。


『岡本3丁目の坂』下から
降りてくる車の角度を見て頂ければどれだか急坂か理解できるはず!

ロードバイクなんて快適なやつじゃなく、ママチャリよりも漕ぎにくいタイヤの小さいオンボロ自転車で。溝の口から246を二子玉に渡るだけでも結構大変ですが、二子玉から環八へと出る為には、先ほども話しましたが、自転車乗りの間でも有名な長くて斜度22%を誇る急勾配の坂があります。熱中症にならないように何度も途中の公園の水道で水を頭から被ります。汗は滝の様に体を流れていきます。そして走り続けて30分弱。きっと小学1年生の息子を励ましながら休み休みいけば1時間近くかかったでしょう。とにかくプールに着きましたが、相当な数の人達が並んでいます。入れ替えでかなり待つ感じでした。僕は別にプールで泳ぎたかった訳ではなく、ただ大量に体を虐めて汗をかきたかっただけですから、プールを後にして更に自転車の旅を続けます。何となく帰る方向を通ったことのない道を選んで遠回り遠回りして行きます。沢山の世田谷の知らない道を走り色んな面白い景色を発見して、帰ってルートを確認したら20km近い距離を走りました。そして見事に熱も吹っ飛び体のコンディションも最高の仕上がりに。


誰もが知ってるこのアルバムジャケット。ビートルズのアルバムでどれが最高傑作かはさておき、このアルバムの中心は紛れもなくポール。俺は絶対ジョンだぜ!と思っていた僕も40を過ぎてポールの音楽が心地よく感じる今日この頃。年齢とともに色んな好みが変わるよね。

という事で、この長い回想を終えてはじまりの

「そうだ。裸足で歩こう」

に話を戻しますが、電車の中で足の状態を確認して、僕は裸足でスタジオまで歩く決心をしました。靴は見えるように鞄には仕舞わず手で持ちます。いきなり裸足の男が歩いて居たら刑務所から脱獄してきたと思われちゃうかもしれませんから。
最初裸足は痛いかな?と思ってましたら、冷たくて気持ちが良いんです。そして駅構内を抜け完全なる路上へと辿り着きました。お世辞にも川崎は綺麗な街とは言えませんので、ガラスやらなんやら落ちていて足を怪我すんじゃないか心配でしたが、全くそんなことはありません。そして歩いていて発見するんです。

「もしかして靴いらねえんじゃね?」

ってくらい快適なんです。勿論何人かの人からの好奇の視線に晒されるのは否めませんが、その後誰かの家にお邪魔する予定もありませんし、誰の迷惑にもなりませんし、本人が気持ちいいですから最高じゃないすか。
でもって、裸足で歩く事と、裸で自転車に乗る。出来事の共通点なんですが、もちろん傍に居る人が嫌がってるんだからその気持ちを大事にしてやるってのは大切です。しかしですね僕は言いたい!

「そんなイデオロギーなんて虚仮脅しさ」

なんだか妻を責め立ててるような印象を持たれるかも知れませんが、そしてたかが自分が裸で自転車に乗りたかっただけなのを、なんだか大袈裟に語ってますが、例えばそんなことが積み重なって些細なことで自分を縛り付け苦しんでる状況になってる人って多いと思うんです。だからそんなものから自由になって欲しい。それが誰も傷つけず。悲しませたりしないことならば。

だからもっと妻のことを大事に想い。言うことを聞かないとですね。そして一人の時に裸足で街を歩きます。

 

どうかヨガスタジオにお越しの際は靴を履いて来てください。でもどうしても裸足でお越しになりたい場合は、しっかり足を拭いてお入りください。


『岡本3丁目の坂』上から
天気が良ければ綺麗な富士山が拝めます。