【2016/8月号】71年目の夏

まもなく71年目のあの日がやってくる。それに先立って今年の5月アメリカのオバマ大統領が、現職の大統領としては初めて、原爆が投下された広島の地を訪れ17分に亘る演説を行なった。

アメリカ大統領という複雑な立場から考えると2009年のプラハでの演説と比べ、些か具体性に欠けるとは言え、任期8年の外交を総括するとも言えるこの日の演説は、深い慈愛に満ちた素晴らしい美しい詩であった。
世論調査では、現時点での大統領に対する評価は非常に低いが、黒人初という期待の元、熱狂的に迎えられた後、世界的な不況や、更なる中東の混乱など、困難な状況に事欠かないこの時代に現職を勤めた事を同情的に見つめ、指導者としての評価はさて置き、僕は彼が変えようとした現状や理想を好意的に捉えている。稚拙な表現になってしまうが、本当に良い人、という印象が正直な感想だ。彼の話はこの位にして、僕みたいに全く戦争とは無縁の人生を送ってる者でさえ、毎年日本人としてこの時期を特別な感情で受け止めているし、はじめて広島に行った時は当事者意識に引き込まれる感覚に陥り、深い憤りを覚えた・・・真珠湾攻撃と広島長崎への原爆投下が等価である筈はないと!

そして今年僕は感じた。年齢を重ねて自分の中で様々な物事に対する視点や捉え方の変化を、若い頃に興味を引かれた部分と違う言葉や出来事を、この時期に触れる沢山のドキュメンタリーや記事を通してそれに気付かされた事。



広島にて演説するオバマ大統領

その中で原爆投下を決断したトルーマン大統領の孫が語る、謝罪と責任という記事で、戦後生まれのトルーマン大統領の孫ダニエルさんは、色んな運命の巡り会わせの中で、歴史の絡まった糸を丁寧に手繰り寄せ、まるで導かれるように、近年積極的に日本の被爆者との交流を行い、被爆者の体験をアメリカに伝える活動を続けている。ダニエルさんは言う。

「当事者でない者が、原爆投下が戦争を終結させたか否か、正当な行為だったか否かについて語ることはできない。それよりも大切なのは被爆者の家族の立場を理解し、より良い未来に向けてこの出来事を伝える為に尽力していことだ」

そう彼なりの『責任』という意識だった。そして「祖父は戦争を早期に終結させ、アメリカ人の命を救うことを最優先にして原爆投下を決断した。祖父は日本人の命も救いたいと願ってはいたが、優先的に考えたのは自国民の命だ」この言葉の裏にはトルーマン家に生まれた彼自身の苦しみを汲み取ることができる。

沢山の人によって語られる1つの物語は、その全てが真実である世界は信じられないほど複雑で、物事の捉え方は膨大であり、その全てを網羅することは出来ない。だからこそ常に相手の中にある真実を理解しようとする努力を怠らず、お互いが歩み寄ることを忘れてはならない。オバマ大統領の演説の中で、最も印象に残った言葉は

「核保有国は恐怖のロジックを脱し、核のない世界の実現を目指す勇気を持たなければならない」

そう真の勇気とは恐れを克服すること、不安が恐怖を煽り、外側のあらゆる物に縋ろうとする。僕が触れるYOGAの言葉はいつも本当の勇気について教えてくれる。

最後に被爆者の方が、苦しみに耐え抜いて体験を語る勇気を称え、少しでもその声が広く長い時間響き続けることを祈りたい。



第33代アメリカ大統領ハリー・トルーマンと孫のダニエルさん